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前の話。 「物置なんかで何やってるの?」 呼び止められて、はっと気がつく。振り返ると妻の姿があった。 「何でもないよ」と答える。しかしその声は裏返っている。 何でもなくないのは明白だ。 追求に身構えたが、彼女は「そう」とだけ言うと、早速自分の話を切り出した。 「そろそろお墓参り行かない?」 「ああ、そうだね」 気がつけば時計は15時を指している。空気が最も暑い時間である。 「もう少し涼しくなってからの方がいいのではないか」と意見したが、 「暗くなってからお墓に行くなんて嫌だ」と一蹴された。 「じゃあ、車出してくるからお義父さん呼んで来て」 「ああ」 そして妻は廊下の奥に消えた。私は手紙をズボンのポケットにねじ込み、ゆっくりと部屋を出た。部屋のドアを閉め、今へ向かおうとしたが何故か足が止まる。 私はもう一度自室のドアを開けて中に入ると、埃臭い自室の空気を肺一杯に吸い込んだ。 ――あれからもう10年も経つのか……。 色々と変わっていく。就職もしたし結婚もした。自分の部屋だったこの場所も、 今では物置として使われている。 皆変わった。変わってないのは何だろう。胸のポケットから煙草を取り出して火をつける。 「……俺も、おっさんになったしなあ」 言葉が紫煙と共に吐き出でた。 表の方で車のエンジンがかかる音が聞こえる。そろそろ行かないと。 ドアノブに手をかける。 今度は振り返らなかった。 続きを読む。 #
by unnyo8739
| 2006-10-19 15:13
| 僕俺私小話
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その手紙を見つけたのは、盆に田舎へ帰った時の事だった。 くすみ、変色し、ぼろぼろの封筒の中にあった割にはほとんど痛みはなかった。 書かれてある一文字一文字までしっかりと読み取る事が出来る。 何気なく開き、目を通す。それはどうやら自分へ宛てた手紙であるようだ。 「差出人は……」 ――紺野さなえ。 この名を目にした瞬間、僕は思わず手紙を伏せた。 これは読むべきではない。読んではいけない。自分へ言い聞かせる。 しかし、開かれてしまった記憶を押し留める事は出来ない。 流れ出したそれは、あっという間に僕を飲み込み、十年前のあの日を再現する。 目を開いたとき、そこには燃えるような夕陽があった。 射してくる光は金色をして、この目に飛び込んでくる。 そして、夕陽を背にして立っているのは、まさしくあのときの彼女だった。 逆行に暗く、その表情を読む事は出来ないけれど、 それはとても寂しそうであり、辛そうであり、僕はそれを直視する事ができなかった。 夕陽が眩しいふりをして、彼女から目を逸らす。 彼女は僕を真っ直ぐに見つめている。 その視線が、とても痛くて、哀しかった。 続きを読む。 #
by unnyo8739
| 2006-10-18 17:59
| 僕俺私小話
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だったら私がファンタジー。 前の話 二人は無言だった。何の言葉もなかった。時折ため息があるだけだった。 どれくらい時間が経っただろう。気がつけば日は傾き、夜が間近に迫っていた。 ああ、家を出たあのときは、こんな事になるなどまったく思いもしなかったのに。何がどうしてこんな事になってしまったんだろう。 いくら悔やんでも考えても、何一つ現状は変わらない。 冷たい夜の風が二人を撫でる。ブルリと身体が震える。その僅かな震えの後、ぐうと原の鳴る音がした。 ジョウは思わず笑ってしまった。いくら絶望に追いやられても本能は決して屈しないその様が、何とも可笑しかったのである。 続きを読む。 #
by unnyo8739
| 2006-10-18 17:25
| 僕俺私小話
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