|
「仕方ないなあ」 尻を叩きながら立ち上がる。 まずはシリアだ。この牢獄に囚われているとは限らないが、僅かでも可能性がある限り調べる必要があるだろう。 「うまく見つかるといいんだけどなあ」 眼を閉じて精神を集中する。どうせ必死に見開いても暗闇しか映らないのならば、開いていても閉じていても変わらない気もするが、集中する際の癖なのだから仕方がない。 さらに集中させ、暗闇の中に意識の根を張り巡らせていく。 感知の術。 物に宿った魔力や、周囲に働く精霊などの力を探る魔術である。 本来その感知範囲は数メートル程度だ。しかしこの空間の中においては、たったそれだけの範囲を感知しても、まったくの無意味だろう。 最低でも数百メートル。最悪数キロ近い範囲で感知を行う必要がある。 なんて途方もない。下手をすれば感知だけで体力を失ってしまいかねない。なんてこった、行き倒れの可能性まで出てきてしまった。 ため息をひとつ。 果たして彼女の存在を感知できるのだろうか。そもそも居るか居ないかすら定かではないというのに。 やれやれ、何処のどいつか知らないが、足止めの作戦としては最高だ。 「う、ううん……」 「お、気がついた?」 「……?」 気がつくとシリアは薄暗い小屋の中にいた。自分は自宅のベッドにて眠っていたはずだ。何故こんな所に居るのだろうか。まるで事態が飲み込めない。 「こ、これって、いったい……」 とにかく起き上がろうとする。だが。 「……っ!」 それは叶わなかった。身体の自由が利かない。手首に鈍痛が走る。 暗くてよく見えないが、縄か何かで自分は縛られているらしい。 「大丈夫、朝には帰れるよ」 聞いた事のない声。 「でも今は大人しくしておいて」 声が笑った。 「あなた、誰……?」 シリアの問いに声は答えなかった。 「来るかなあ、あいつ」 声は小さく笑うと、いつの間にかその気配を消した。 シリアは声をあげてみたが、それは風の音にかき消されていった。
by unnyo8739
| 2006-12-26 17:29
| 僕俺私小話
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||