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45%の真実様 それの、存在理由。 より。 何故そうしたのかだって? そうしてしまったからさ。 後先は考えなかったのかって? 世の中そんなに思い通りに行くものなのかい? 「やあ……。こいつはひどいね」 気配は感じなかった。声は背中から聞こえてきた。 雷が部屋を照らす。一瞬伸びる影。僕に覆いかぶさるようにして立っている。 「皆死んでしまっている。そして死体まで殺してしまった」 歌っているかのような声。涼やかで、伸びやかで、酷く嫌悪を覚える。 「立ち上がらなければ平穏無事に生きていられたのに」 どさり。 何かが放り出される。暗闇が『それ』を隠した。 「彼女は教えてくれなかったけれど……。まあ、人海戦術の賜物だね」 再び稲光が走る。青い光に照らされた『それ』には、見覚えがあった。 「あんな深い地下室、誰が作ったんだろうな。そうは思わないかい?」 ゆっくりと振り返る。暗闇が声の主の姿を隠す。しかし。 「はじめまして。そしてさようなら、『人間の敵』」 放たれる殺気は隠されようがない。三度目の稲光が走る。僕を殺す神速の一撃。 ――ィィン。 金属と金属が弾けて響いた。かろうじてそれは受け流せた。しかし右手が痺れる。ああ、速く重く、何て確実な一撃だろう。 足がもつれる。無様に床に投げ出される。体勢が保てない。次の一撃が果たして受けられるか? ――否。 一手届かない。俺は無防備。奴は止めの体制。今まさに最後の一手を振り下ろそうとしている。残念でした。此処までです。 俺は目を閉じた。 激しい閃光と衝撃。身体が吹き飛ばされる。爆音が聴覚を奪う。 背中に強い衝撃が走る。肺の中にあった空気が全て持っていかれる。 「――ッ!!」 動けない。動く事が出来ない。 奴が叫ぶ。いや、叫んでいるのだろう。しかしそれは俺の耳に届かない。 震える空気がちりちりと肌を焦がす。 重い体を叩き起こそうとするも、それは適わなかった。衝撃が身体から離れない。まるで打ち鳴らす太鼓の中に放り込まれたかのようだ。 一体何が起こったのか。考えるも、まるで思考がまとまらない。わからない。頭の中が混乱している。 真っ暗だ。目の前が真っ暗だ。 落ち着け、落ち着くんだ。 足は? ある。 では腕。 ある。 ならばこの腹は? 大丈夫。 そして、この右の手には、しっかりと刀が握られていた。 ――いったい何が起こったんだ? 外界へ感覚を研ぎ澄ます。 瞼を上げる感覚を、まるで実感できなかったが、しかし僕の脳内に世界の姿が映る。 瞬間。ぶわりと熱が顔を撫でた。何だこれは。霞む眼がようやっと視界を取り戻していく。暗闇が消えていた。世界が赤く照らされている。 これは何だ? 奴が何かしたのか? 見渡すと、天井は砕け床はえぐられている。 この頬を撫でたのは、炎の波か。一面が赤く覆われていた。 「……雷?」 まだ意識がはっきりとしない。 視界が霞む。衝撃で耳が馬鹿になっているのか。世界はから音が消えた。ただ心臓だけが喧しい。 ――逃げないと。 そうだ、逃げなければならない。この炎から、崩れ行くこの場所から。 早く、早く、早く、早く早くはやくはやく! 背中から迫ってくる。『それ』はこの背に既に迫っている。 足を運べ、『それ』をまだ受け入れるわけには行かない。 与えるべき『それ』を与えるまで、『俺』はまだ『それ』を受け入れるわけにはいかないのだ。 「……逃がすものか、『人間の敵』!」 微かに聞こえた。やはり『それ』はこの背にいた。 『死』と言う名の『それ』は、続けて何事かを呟く。 けれどもそれは俺の耳には届かなかった。 右手の刀を振るう。背に立つ『それ』へ向かって。 しかし力なきその一撃は、難なく避けられる。 「終わりだ。世界の為に、お前は今此処で死ね」 背中で『それ』が言葉を発した。 俺はゆっくりと振り返り、目の前につきつけられた『死』の姿を眼に映す。 そしてはっと息を呑んだ。 そこにいたのは俺自身。 左手に刀を構え、それを今まさに突き降ろそうとする、俺自身の姿があった。
by unnyo8739
| 2006-11-27 17:21
| 僕俺私小話
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