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出井氏は激昂していた。あまりの激昂ぶりに、意識不明と診られてもおかしくないくらい、 その感情は高ぶり、我を忘れ、正常な判断は失われていた。 おそらく目の前にあるメイド型ロボが、何者であるかすらも理解していないだろう。 ただその身の内より沸き出る、破壊衝動のみが彼を突き動かしていた。 「ほおおおうりゃあああああ」 天を割き、地を割らん勢いの雄叫びを上げ、出井氏は溶接機の炎を少女へと向け炎を放った。噴出す炎は既に溶接機というよりも火炎放射器だ。 いいや、そんな甘いものではない。 鉄をも溶かす恐ろしい熱量の超強力な破壊熱線照射機である。 いくら超性能のロボットとはいえ、この熱量を浴びてしまってはタダではすまないだろう。 だがしかし。 「……冷却率九十パーセント、余熱をエネルギー変換、腕部砲身展開……」 ぶつぶつと呟きながら、出井氏へ向けて右の腕を上げていく。 その手の平はだらりと下げられていたのだが、 「消えろッ!」 叫びながら勢いよく手のひらを開く。次の瞬間彼女の腕が割れ銃身が飛び出した。 「エコロジカル☆廃棄物瞬間蒸発処理砲―ッ!」 叫ぶや否や、彼女の姿がぐらりと歪んだ。 いいや、その凄まじい熱量で周囲の空気が歪んでいるのである。 しかしそれも一瞬だけの事。肌を焦がすどころではなく、 まさに瞬間的に物体を蒸発させるほどの、 凄まじい高温の熱線が彼女のその手から放たれた。 出井氏が彼女に向けた炎など、まったく意に介さないほどの凄まじい熱量である。 ガラクタまみれであった出井氏の研究室が、瞬時に片付け、いや。消滅、崩壊していく。 ――ああ、俺、ここで死ぬんやあ……。 宮氏の心は恐ろしく冷静だった。 直面しているこの不条理にも、関わってしまった後悔も。 まったく彼の心を動かす事はなかった。諦めなのか。蛇に睨まれた蛙の気分か。 まったく穏やかな気分。眠りに落ちるパトラッシュとネロ少年の心を理解した気がした。 「……?」 それは瞬間に訪れると思ったのだが。 「……生きてる?」 右手を動かす。続いて左手、視覚で確認できるという事は、両方の眼も無事だという事だろう。感覚を確かめる為、動かしてみる。近くのガラクタが崩れてきて、両足に当たった。 「いてえ……」 いや、そんな事より。どうしてあの凄まじい熱線が放たれた中、俺は生きているんだろう。 辺りを見回してみる。
by unnyo8739
| 2006-06-14 16:23
| 僕俺私小話
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Comments(2)
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