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まるで波のない湖のように静寂が辺りを支配していました。 誰も何も言葉を発する事がありません。 まるで息をすることすら許される事ではないかのように、そこにある静寂はとてもとても重いものでした。 しかしツンデレラはそんな沈黙など存在しないかのように口を開きました。 「王子様」 彼女は恭しく王子に一礼をすると、背筋を伸ばし真っ直ぐな視線を向けて静かな口調で続けました。 「お騒がせして申し訳ありません。本日はここで失礼致します」 王子は何も答える事が出来まず、それどころか頷く事すら出来ません。 ただ呆然と彼女を見ているだけです。 彼女は呆然と立ち尽くす彼の脇を通り過ぎると、魔法使いの正面に立つと言いました。 「彼を放しなさい」 それはとても静かな一言でしたが、魔法使いを掴んでいる男達の手は力なくするりと抜け落ちたのでした。 急に自由になったものだから、魔法使いはふらふらと倒れそうになってしまいました。 ツンデレラは彼を受け止めようとしました。だけども彼女の傷ついた足では、二人分の体重を支える事が出来ません。二人はそのまま倒れこんでしまいました。 「ごめ……」 魔法使いが謝ろうとしたそれよりも早く、ツンデレラは彼を抱くと震える声で言いました。 「ごめんね、魔法使い」 ツンデレラはその瞳にはいっぱいの涙が浮かんでいました。 「……どうして……」 魔法使いはそれだけ言うと、それ以上言葉にする事が出来ませんでした。 「行こう魔法使い。ごめんね。私のせいでこんなになってしまって」 とんでもない。魔法使いは思いました。しかしそれは言葉になりません。 二人ともふらふらでした。ツンデレラ達の歩いた後には、赤く点々と血の跡が続いていました。 そしてついに舞踏会場の出口にまで差し掛かったその時です。 「ツンデレラ!」 誰もがハッとしました。誰もが声の方向へ顔を向けました。 しかし既に声の主はその場におらず、次の瞬間。 「ああ……」 ツンデレラの息を吐く声が小さく辺りに響きました。 そこには三人の人影がありました。 眼を閉じ血を吐いているツンデレラと、呆然とする魔法使い。 そしてガラスの靴の破片を、ツンデレラの胸に深々と刺している彼女の姉の姿でした。
by unnyo8739
| 2006-01-13 16:52
| 僕俺私小話
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Comments(2)
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