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「はっはっはっは、計画は失ぱ……」 「――もう、いいよ、魔法使い」 それはとても小さく、今にも消えそうな、本当に本当に小さな呟きでした。 「ツ、ツンデレラ……どうして……」 「もういいよ、魔法使い。私はもともと否定なんてするつもりはなかったんだ」 目の前に立つ姉の脇をすり抜けて、ならず者に押さえつけられている魔法使いの下へと歩いていきました。 そして彼の前に跪き、優しく二度彼の頬を撫でました。魔法使いはツンデレラの顔を見てはっとしました。 笑みを浮かべながらも、その大きな瞳から大粒の涙が幾筋も幾筋も流れているのを見たからです。 「ごめんね、ありがとう、魔法使い」 ツンデレラは、その零れ落ちる涙を右手の袖で拭うと、次にはキッと表情を変えて叫んだのです。 「私は彼を庇った」 魔法使いはまた声を出そうとしたけども、ツンデレラはそれを抑えて、尚叫びました。 「あんな惨状を見せ付けられて、私に黙って見ている事など私には出来ない!」 ツンデレラの声は響きます。 「確かに彼は魔法使い。だけども、彼が一体何をしたというの! 私達こそ彼を虐げる加害者ではないの!?」 ツンデレラは叫びます。 その誇り高く毅然とした態度に、誰もが圧倒されました。 それを刹那、ぽかんと眺めていたけども、ハッとしたように彼女の姉もまた叫びました。 「お、お黙りツンデレラ! そのような偽善が通じると思って!? そのような奇麗事が言える身!? でも貴女の側には、誰一人として寄り付こうとしなかったじゃない。ああ、だから同情をしたわけ? ふふふ、ああ、そうだったの、お似合いだわツンデレラ!」 「違う!」 誰も動く事は出来ませんでした。そしてもう誰も何も言葉を発する事が出来ませんでした。 魔法使いも、二人の隣に立つ王子も、騒ぎを聞きつけ駆けつけた王達も、告発した市民達も、舞踏会に参加していた人々も、誰一人として。 彼女達という圧倒的な存在感の放つ迫力は、彼らから動きというものを、完全に奪い去っていたのです。 この空間にて動きを得ているものは、ツンデレラとその姉だけ。後はただ見守るのみ。 それはまるで魔法のよう。 「私は確かに彼を庇った! だけどもそれは同情からじゃないわ!」 搾り出すように、だけども力強く、そして誇り高く、彼女ははっきりと、それを言い放ちました。 「私には、あれが耐えられない光景だったから! あんな集団で人をいじめるなんて私は許せない! だから庇った!」 「ああそう、ふうん、誇り高い事。だけども、あれは異端者、存在してはいけない存在。それを貴女は分かっているの? 自分の正義を振りかざして、世界を敵に回して戦うなんて、素晴らしくおめでたい事ですわね!」 姉はツンデレラの目の前に歩み出て、彼女の頬を撫でます。 「貴女、あの魔法使いから受け取ったものがあるわね? 王子様、お聞きください。それを持つものは、全てを手に入れるという。この子はそれを使ってあなたを騙し、この国を手に入れるようとしたのです。全てあの魔法使いが白状した事ですわ!」 「お姉さま! これ以上彼を貶めるな!」 ツンデレラは顔に触れる手を振り払い叫びました。 だけども姉は、ツンデレラの目前に立ったまま、 「目を覚ましなさい、見苦しいわツンデレラ。さあそれをお出しなさい、それは私が預かりますわ!」 次の瞬間、ツンデレラのドレスの裾を捲り上げたのでした。 だけどもそこにあったのは、鋭い破片の上に立つ、赤く染まったツンデレラの足だけ。 ツンデレラはただ真っ直ぐに姉の顔を睨みつけています。 「ガラスの靴……っ! ガラスの靴は何処っ!?」 姉はツンデレラの足元に跪く様にして、そこにあったであろう靴を探します。 鋭いガラスの破片が辺りにこぼれているけど、その最悪の結果を想像したくないから。 「これよ、お姉さま」 ツンデレラは、まるでそんな彼女に止めを刺すように言いました。 「そんな、まさか……」 信じたくない、信じたくない。姉の表情はそう語っていました。 それは今にも泣きそうな顔。 「私には必要ないもの」 だけどもツンデレラは言い放ったのです。 砕けたガラスの靴が放つ輝きは、今はとても鈍く、弱々しく。 「全てを手に入れる靴ですって? 冗談はよして頂戴、私の運命は私が決める」 強い眼差しで、威風堂々と。 「馬鹿な! それさえあれば君は幸せを掴める筈だったのに!」 解き放たれたかのように、魔法使いが叫びます。でも、それを聞いてツンデレラは、 「魔法使い」 申し訳なさそうに小さく微笑んで言いました。 「ごめんね、魔法使い。私、折角くれたモノなのに、壊しちゃった」 小説と詩のまとめ
by unnyo8739
| 2005-11-25 10:25
| 僕俺私小話
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