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私は特に触れる事もあるまいと思ったのだけれども、嫁がどうしてもその時の話を聞きたいと言ってならないので触れてみる事にする。 一体何の話かというと、分娩室で嫁がいきんでいるときの私の心情である。 ラマーズ法とかでヒッヒッフーとか、そんな呼吸をしてたりしてなかったりの最中の話である。 実際にラマーズ法をするのは生んでる最中の出来事なのかもしれないが、その辺は詳しくないので何とも言えない。 そもそも分娩中は分娩室を追い出されてしまったわけだし。 まあそれは良いとしよう。 嫁が汗だくになって痛い痛いと言っている矢先、男というのは情けないモノで、一体全体どうして良いのか分からず、自分自身にまで嫁の呼吸が移ってしまった、等というのはよくある話であるが、残念ながら私にはそのセオリーは適用されなかった。 ではどのような状況であったかと言うと。 まあ何というか、よく言えば冷静。悪く言えばまるで他人事かのように心は静まりかえっていた。 ぶっちゃけ眠気を感じていたばかりの可能性も否定できない。 そもそも私は結婚式当日にすらネトゲをプレイしたりするほどの、まあ何と表現するべきか、図太いというか非常識的というか、冷静というか、あるいは何か別の事をやる事によって冷静さを強引に保とうとしているというか他色々。 まあそんな感じの人間であるので、他人から見れば冷静を通り越して非道と見られても仕方がないのではないかと自分では思ったりする。 とまあそんな感じにまるで他人事のような冷静さを保っていた私に一分の隙もなく、分娩室にて私は嫁の髪を撫でたり、手を握ったりしていた。 ちなみにこの髪を撫でるという行為は女性に対して最も効果的なアピールというか何というか、リラックスさせたり他諸々の効果を持つ、最終兵器的裏技行為である。 余程自分が毛嫌いされていない限り、そして見ず知らずの他人でない限り、髪を撫でるという行為を行うと大抵の女性が肩に寄りかかってくる。 髪は女性の急所なのだ。 ううん、知らないけどきっとそう。 さて。 どうしようもない程に他人事的冷静さを持っている私なのだけれども、それには私の中に、「絶対に無事に生まれてくるだろう」と言う、全く根拠のない自信が満ちあふれているから、と言うのがある。 自分自身に絶望的なアクシデントが起ころうはずはない。 自分の身内に絶望的なアクシデントが起こるわけがない。 この、ある意味平和ボケの究極とも取れる自信こそが私の心を他人事的冷静さの根源である。 いや、自信という言葉を使っては見たが、結局それは自らを安心させるために、自らを思い切り騙しているという行為でもある。 それでも無駄に不安を感じ、焦りに飲まれるよりはずっと良い。 とは言うものの。 付き添ってくれる助産師が目の前にいるのならばともかく。 時間が時間だったためか、あるいは同時間に同じく分娩室に入った妊婦がいたためか。 助産師やら看護士らはせわしなく部屋を移動して回り、何度か完全に部屋からいなくなってしまうと言う状態に立たされた。 このときばかりは私も非常に強い不安感を覚えてならなかったのだが、それ以上に嫁は不安感を覚えているに違いないと思い、敢えてそれを口にした。 不安を不安と言い切る事で不安感を払拭しようとしたのだ。 お互いに不安を感じているのだという共通の認識を持つ事で、逆に相手にリラックス効果を与えようとしたのだ。 じっと耐える事によって払拭される不安など在りはしない。 不安があるのならば、その不安を笑い飛ばせる状況を作り出せば良いのだ。 これが私のカリスマ! これが私の能力! ちなみにこの能力は普段から超絶冷静である私であるからこそ可能な技であり、素人には難しい所業なので、真似をしても良いけれどその後の経緯は保障しない。 まあそんなわけで。 実際には命がけとなる出産という事件も、私にとっては確実にクリア出来る物事の一つとして認識され、取り乱したりする事などは全くなかったわけで。 むしろ病院の待合室にあった漫画の続きが気になるなあ等と言う、結構なロクデナシ的思考が頭の隅にあった事を私は認めなくてはならないだろう。 これでいいのだ。
by unnyo8739
| 2009-02-02 16:09
| 日誌叙情駄文
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