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俺には持論がある。それは、 「どんなときでも知性ある行動を取る」 というものである。 これは俺が人付き合いをするに置いて、最も優先するルールである。 この持論、ルールに関する、根拠は何か。 それは単純。映画でもゲームでも、大抵頭の悪い敵というのは、常に短絡的、感情的であるから、である。 俺はスマートでありたいのだ。 ある日こんな事があった。 友人の神埼と学校の廊下を、二人並んで歩いていたのだが。俺の鞄が通りすがった誰かにぶつかった。別段故意にぶつけたわけではない。たまたますれ違う際にぶつかっただけの話である。それも思い切りぶつかったわけではなく、鞄の端がかすれる程度であったのだが。 「カスが、ぶつけやがった」 ぼそりと聞こえてきた。 思わず振り返る俺と神埼。そこにいたのは、別に不良であるとか、ヤンキーであるとか、そういう類の人間ではなく、俺たちとあまり変わらない風貌の男子生徒がいただけだった。 陰険そうな、変な奴とか、そういう類の人間でもない。本当に普通の生徒だった。 生徒、という言葉を使ったのは、俺の知らない奴だからだ。 男子生徒はそれだけに留まらず、その後も言葉を続ける。 「汚ねえ。ぶつけやがってよ……」 相変わらずボソボソと、しかし確実にこちらに聞こえるように喋っている。 俺は腹が立った。頭に血が上った。しかし、こんな下らない事で感情を浮き出させるのは、俺の美学に合わない。そんなことは知性の低い人間のする事だ。 俺は押し黙った。しかし、神崎はそう思わなかったようだ。 「おい……」 俺はそれを制する。下らない人間には放置を決め込むのが一番だ。こんな知性のなさそうな人間に合わせて、こちらが感情的になってしまうのは最悪だ。こんな奴に構ってしまうと、己自身の程度までが下がってしまうのだ。スマートにありたい俺はそんな下らない事に己の拳を振り上げない。 神崎を抑え、気にせずその場を去ろうとする。瞬間背中で声が聞こえた。 今度はしっかりはっきり聞こえる声だった。 「あー、畜生、汚ねえなあ。もう」 今度こそ神崎が拳を振り上げようとした。 いくらスマートにありたい俺でも、はらわたの煮えくり返る思いを抑えるのに必死だった。 しかし次の一言があれば、奴をスマートに黙らせてやろう。 だが。 「なんだとぉ? お前今なんつったぁ?」 俺たちの衝動は、唐突に現れた第三者の一声にて一気に制された。 振り返ってみると、今度はどう見ても不良ですと見た目で訴え出ているような、そんなステレオタイプに先程の男子生徒が絡まれていた。 一瞬何が起こったかわからなかった。 「きたねえ、だとぉ? 上等だよゴルァ、ちょっと顔かせや」 「いや、ちが……」 あの馬鹿男子、丁度俺らに下らない一言を発した瞬間、自分にでも酔ってたのか。 丁度言葉を発した瞬間、不良生徒とすれ違い、それを誤解されてしまったらしい。 俺らには言えても、彼らには同じ事が言えないようだ。程度の低い人間はこれだから困る。 必死で言い訳しようとする馬鹿生徒。しかし突きつけられた暴力の前に、それは虚しく霧散される。 「何が違うんだよ、お前さっき大声で言いやがったじゃねえか、俺の事を汚えってよぉ!」 「え、何だって、じゅんちゃん、そいつ何か言ったの?」 「お、山口かよ。丁度いいや、今からこいつやっちまうからさ……」 くわばらくわばら。 激しい自業自得である。同情する理由もない。 己の知性なき、下らない一言が招いた当然の結果である。 しかしこのように当然の報いを受けたとしても、今後は己を見直して態度を改めるとは思えない。この手の人間は、いつまでもいつまでも同じ事を繰り返す。 きっと懲りずに下らない一言を吐き続けるのだろう。 もっとも、先程の彼自身に限定するなら、今後まっとうな学校生活が送れるかどうかは別件だろうけども。 俺は知らない。知った事じゃあない。
by unnyo8739
| 2006-11-24 11:49
| 僕俺私小話
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