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45%の真実さま 雨脚 より。 人の心がそうであるように。人の命がそうであるように。 日常と非日常は背中合わせ。遠く対極にあるわけではないよ。 けれど眼に映るのはいつだって、たった一面唯一つ。 だから忘れてしまいがちなんだ。 冷たい雨が不愉快だ。吹きつける風が腹立たしい。重い空気がまとわりつく。 不快だ。不快だ。不快だ! もうすぐ日が落ちる。日が落ちれば雨は更に冷たくなる。傘が重い。風が出てきたようだ。 ざあと。雨音が更に重くなるのを感じた。きっと嵐が来るのだろう。 それにしても不愉快だ、不愉快だ、不愉快だ! 「あの馬鹿親父、ほんとにこの店なのかよ……」 「CLOSED」の札が雨に揺れる。こんな所で本当に、塩なんて売っているのか。 僕は不機嫌だった。恐ろしいほど不機嫌だった。 故にドアを叩いた。 「もしもーし、誰かいませんかー。お客様ですよー」 がんがんがんがん。がんがんがんがん。 ほどなくして出てきたのは、深くフードを被った老婆だった。 「何だい、うるさいね。そこの札が見えないのかい?」 吐き捨てるように言う。「一体何の用なんだい」その目は憎々しげに僕を睨んでいた。 「塩を」 「塩だって!?」 老婆の目がカッと開く。 「塩を、この店で買ってこいって」 嘆息。きっとこの後「うちが塩売ってるように見えるのかい!?」とでも叫ぶのだろう。頭が痛くなってきた。 しかし、老婆の対応は予想外のものだった。 「……そんなことを言ったのは、何処のどいつなんだい……」 恐ろしく低い声だった。あまりに予想外だったので、一瞬固まってしまった。慌ててそれに答える。 「森の奥の……」 それを聞いた瞬間老婆は驚いたような表情を見せた。すぐに顔を伏せ沈黙する。そして。 「入りな」 ドアが開き、中へと通された。 家の中は薄暗く、申し訳程度の灯りしかない。そして予想通り塩など売っているようには見えなかった。といって、只の民家にも見えない。生活観がまるで見られないのだ。 家具に積もった埃が、雨の湿気に当たって酷い匂いを撒き散らす。僕は顔をしかめたが、構わず老婆は家の奥へと進んでいった。仕方なくその後を追う。 「そこで待ってな」 老婆が唐突に口を開いた。言われたとおりに立ち止まって待つ。 老婆は壁に張り付き何かを探していた。そのうちにがこん、という音がして床が開く。 それは地下への入り口だった。 「あの、塩は……」 「ついてきな」 老婆はそれだけ言うと、さっさと地下へと下りていった。僕は何がなんだか分からなかったが、結局老婆を追う事にした。物凄く貴重な塩なのかもしれない、と思ったからだ。 ――どれくらい時間が経ったか。階段を下りる間、僕たちは何の言葉もなかった。ただ続いている階段をひたすらに下りていくだけだった。恐ろしく深く続く地下への階段が続く。 一段、また一段と地下へ下りるたびに不安が沸きあがってくる。果たしてこんな所に塩があるのか? 気がつくと階段を下り終えていた。老婆が部屋に明かりをともしている。 「こんな所に塩があるんですか」 しかし老婆は僕の問に答えず、低い声で言った。 「王は」 「え?」 「王はいよいよ立ち上がる決心をしなさったか」 「ええ?」 まるで意味が分からない。これは何なんだ? 僕は塩を買いに来ただけじゃあないのか? 何かの間違いじゃあないのか? 「これを」 布に包まれた、細長い棒を手渡される。 「しかと王に届けてくれよ」 渡された包みは、その細さにもかかわらず、ずしりと重かった。
by unnyo8739
| 2006-11-01 17:29
| 僕俺私小話
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