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だったら私がファンタジー。 前の話 二人は無言だった。何の言葉もなかった。時折ため息があるだけだった。 どれくらい時間が経っただろう。気がつけば日は傾き、夜が間近に迫っていた。 ああ、家を出たあのときは、こんな事になるなどまったく思いもしなかったのに。何がどうしてこんな事になってしまったんだろう。 いくら悔やんでも考えても、何一つ現状は変わらない。 冷たい夜の風が二人を撫でる。ブルリと身体が震える。その僅かな震えの後、ぐうと原の鳴る音がした。 ジョウは思わず笑ってしまった。いくら絶望に追いやられても本能は決して屈しないその様が、何とも可笑しかったのである。 ――そういえば昼飯食ってないなあ。ジョウがため息をつく。朝から一緒にいたトシもまたろくに食事をとっていないはずである。 「おーい、腹減ったなあ」 返事はない。眠ってしまったのだろうか。この寒さと空腹の中、よく眠れるなあ。 そう思った矢先、冷たい風が背中を走る。 「へーくそいぁっ!」 ぐーきゅろろろろ……。 くしゃみと腹のなる音が、静寂の中に鳴り響いた。垂れてしまった鼻水を啜る。 「……ちょ、あきませんて、ジョウさん」 「あれ、寝てたんかおもった」 「あきませんて」 トシは声を殺している。何故そんな必要が在るのだろう。もう追っ手がかかっているのだろうか。 意味は分からなかったが、とりあえずジョウも声を殺してトシにたずねた。 「何があかんねん」 トシはごくりと唾を飲み込むと、ゆっくり練るように答えた。 「ええですか、後ろ、見たら駄目でっせ。ゆっくり、ゆっくりこっち来て下さい」 トシの肩が大きく上下に揺れている。顔色が悪いのが闇の中でさえわかる。恐るべき何かが、避けるべき危険が、すぐ真後ろに迫っているのを理解する。 見てはならない。見てはならない。自分に何度も言い聞かせる。恐怖が理性を蝕んでいく。 必死に己を抑える。しかし背中にあるのであろう気配が次第に大きくなるのを感じるたび、身体の自由を奪われていく。 動けない。動く事が出来ない。大声で叫びだしたいが、声を出す事は適わない。ただ彼に出来たのは、右肩越しに後ろを振り返ることだけだった。 それは金色に光る何かだった。 それは大人の拳ほどのサイズだった。 それは二つならんでいた。 そして光の辺りから獣の唸っているような声が聞こえる。 これはつまり……。 「ほげええええええ!」 ジョウは叫び声をあげた。 「もげええええええ!」 つられてトシも叫ぶ。 「キェェエエエエエッ!」 ついでに正体不明の何かも声をあげた。
by unnyo8739
| 2006-10-18 17:25
| 僕俺私小話
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