|
前の話。 「ちょ、えらいことになってますよ」 トシが口を開く。しかしそんな事は十重に分かっている。ジョウはしばらく考えた後、 「逃げる」 と言うが否や駆け出していった。 「ま、待ってくださいよ!」 慌ててトシが追う。 「逃げるったって、やばいですよ! 俺ら正式に役所に届けてここに来てるんですから!」 「!!」 ぴたり、と立ち止まるジョウ。 「あかん。そういえばそうやった」 はあはあと息を切らしながら追いついたトシは、しかし冷静に言葉をつむぎだした。 「別に逃げる事ないんちゃいますか? 腐っても退治でっせ。何や魔法つこた思たらあんなもんちゃいますのん?」 ジョウは三秒ほど考え、「それもそうやな」と納得した。 「ほな、一応現場見てきますか。ゴブ死んどるかもしれませんし」 「あいよー」 戻ってきた遺跡入り口には、重度の火傷に見舞われた独りの冒険者の亡骸があった。 「逃げましょう」 言ったかみたか、トシは逃げ出した。 「ちょ、おま、うぇ!」 慌ててジョウもその場を後にする。 必死になって走っていたが、二人とも日々を堕落して過ごしただけあり、あっという間に体力が尽きてしまった。はあはあと肩で息をしながら、辺りを見回してみると、何処かの森の中へと飛び込んでいた事に気がつく。彼らは息が戻るまでその場にへたり込んだ。落ち着いてくれば来るほど、同時にどうしようもない絶望感がこみ上げてくる。 「ああ、もうどないせーっちゅーねん!」 ジョウが叫ぶ。トシは答えない。 ――沈黙。絶望。 火傷の冒険者の姿が二人の頭に浮かぶ。 「やっぱ、あれって、あの爆発で……」 トシはそこまで言うと、その先の言葉を飲み込んだ。あの状況から考えれば、もっとも可能性の高い話である。故に逃げ出し、絶望を味わっているのだ。 「ほんま、あれはもうどうしようもないよなあ……」 つまり言い訳のしようがないということか。ジョウの言葉にトシは更に気が沈んでいった。 「すんません、俺があんなもん誘ったばっかりに……」 トシが頭を下げる。しかしあの爆発を起こしたのは自分だ。自分の炎の魔法が原因なのだ。トシもそれは分かっているはずだ。分かっていてなお自分に頭を下げるトシの姿が、嬉しくもあり哀しくもあった。 「逃げるしかないかなあ……」 呟く。 「逃げるったって、無駄ですよ! 俺ら正式に役所に届けてここに来てるんですから!」 トシの一言が頭の中で鳴り響いた。 「ほんまどないしたらええのんやろ……」 二人のため息が小さく響いた。
by unnyo8739
| 2006-10-13 12:55
| 僕俺私小話
|
Comments(2)
|
ファン申請 |
||