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ツンデレラ。 その10 どん、と。 魔法使いは姉へと体当たりをして、ようやくツンデレラを開放しました。 弾き飛ばされた姉を兵たちに捕り抑えます。 「ツンデレラ!」 魔法使いは叫びました。 けれども彼女の身体は、そのまま力なく崩れていき、倒れた彼女から赤い液体が広がっていきます。 その左の胸には深々とガラスの靴の破片が突き刺さっていました。 ドレスはその場所から真っ赤に染まっていました。 「ツンデレラ……」 魔法使いは倒れたツンデレラを抱き寄せました。 彼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていました。 彼女の手をとってみても、重く冷たく、決して再び動き出す事はありません。 魔法使いは哀しくて悲しくてたまりませんでした。 その悲しみは、自分が魔法使いとして生まれ、人々に蔑まわれた事よりも、何よりも悲しい事でした。 魔法使いは泣きました。いくら泣いても泣き足りませんでした。 「は」 「あっははははは。いい気味よ、ツンデレラ! 私のガラスの靴を壊してしまうから! あなたがいけないのよツンデレラ!」 姉は笑いだしました。狂ったように、大きな声で。 その眼はまるで人形のようでした。そしてただただ笑い続けていました。 「……魔法、使い」 それは今にも消えてしまいそうな声でした。 「ツンデレラ!?」 でも、とても暖かい声でした。 「よかった! 待ってて、決して君を死なせない」 「ガラスの靴は望みを叶える物だったのね」 「いい、今は喋らないで」 しかしツンデレラの眼は閉ざされたままです。 「もう、いいの」 「ウソだ、こんな、ありえない」 「それよりも、聞いて欲しい事がある。私はすぐに行かなければならないから」 「あなたに靴をもらってから、ありえないくらいの出来事が沢山続いたわ」 優しい声でした。 「ああ、そうだ。あれは僕の魔法の結晶だった。二度とは作れない僕の願いの結晶だった。君に幸せになって欲しくて、僕は僕の全てをそれに込めたんだ」 「……ありがとうね」 「でも! それが、君の胸を貫いて、君は! 君を!」 そして魔法使いはツンデレラの声を聞きました。哀しい哀しい声でした。 「いいの、これは、私の望みだった」 「――ツンデレラ?」 「私はもう疲れていたの。世界の在り方に、人の仕組みに。なりふり構わず己の私欲のみに固執する父母。同じ血を分けながら争いの耐えない姉。卑怯な街の人たち……」 「みんな大嫌い」 「私は世界を呪ったわ。皆死んでしまえばいいと思った。父も、母も、姉も、街の人たちも!」 魔法使いは答えません。ただ黙って聞いていました。 「でも気がついたの。そんなことを願っても、何の意味もないって事に」 ふうと、ため息が一つ。 「私は逃げ出したかった。ここから逃げ出したかった。私を誰も知らないところで、私も誰もを知らないところで。最初から全部やり直したかった」 魔法使いは。 「でも、何処にも逃げる場所なんて無かった」 必死に魔法を唱えました。 「そして、だったら私が消えればいいんだと思ったの」 「だからこれは、この結果も、すべて全部私が望んだ事。だから、貴方は、そんな顔しなくていい。なく理由も、必要も無いんだから」 泣きながら、必死で魔法を唱えました。 「魔法使い」 「なんだい?」 「どうして貴方はそうやって泣くの? どうして私の為にそこまで出来るの? そんなに傷だらけになって、そんなに泥まみれになって。初めから世界に捨てられている存在だったのに、初めから誰にも受け容れられないと知っているのに。あなたは、どうして!」 「僕は」 小さく息を飲み込んで、それからゆっくりと、そしてはっきりと答えました。 「君が好きなんだ」
by unnyo8739
| 2006-08-24 17:32
| 僕俺私小話
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