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ファンタジーを書く事にした。 というわけで書く。 ---------------------ココカラ----------------------- ぴゅうと風が吹いたかと思えば、空から綿帽子が降り注いできた。 冬ももう半ばとなった。あれほど感じていたあの暑さがやっと去ってくれたかと思うと、次には風は冷たく刺すように鋭くなっている。その冷たさ、鋭さは道行く人の帽子を更に深くかぶり直させた。 そんな様子を窓の内より、ぼうと眺めていた男は、視線をその灰色の空に向けたまま一言つぶやいた。 「旅に出ましょうか」 唐突に男、トシが口を開いた。あまりに唐突な発言であったが、部屋にいたもう一人の人物、暖炉の前で静かに本を開いていたその男、ジョウはやはり視線をその本へと向けたまま 「何処行こかー」 と、答えた。トシに言葉をまったく意に介していないようだ。冗談か何かと思ったのだろうか。 「何処がいいですかねー」 虚ろだった表情に光が走る、トシは本気のようだ。本気で旅に出ようと誘っているのだ。しかも脈絡も何もなく。ただ気まぐれに旅をしたいと思ったからこそにその言葉を投げはなったのだ。 「お前きめやー」 常人であれば、動揺をしかねない状態なのだが、ジョウは冷静だった。冷静というよりも何か諦めたような、そんな顔色が暖炉の炎に照らし映し出されている。事実彼は諦めていた。諦めていたからこそトシのたった一言のみで、今後の身の振り方を決定してしまっている。このときの彼は、生きる気力すら感じられないと言われたところで否定できなかっただろう。 「何処にしましょうかねー」 トシはそう言いつつ既に心中何処へ行くつもりか決まっているようで、着々と準備を推し進めている。しかし彼の頭の内は、とりあえず出かける準備をする、との一点以外何も考えておらず、その後のことなどはまったく考えていない。しかし出かけることは出かける事で既に決定しているならば、とりあえずにもその準備だけは怠らない。実にアバウトな考えでしかなかった。 しかしジョウはそれ以上に何も考えていないようで、 「何処行こかー」 と、まったく同じ台詞を吐いた。 ジョウの家は代々魔道士の家系だった。 そのため彼も幼い頃から魔術の修行に明け暮れた。しかしいくら家系であっても、人間得手不得手はある。ある日彼は自分の能力が弟に劣っている事に気がついたのだ。それは彼を酷く落胆させた。自分の能力の限界を呪った。死に物狂いで修行に打ち込み、何とか開きつつあった弟と差を埋めようとした。しかしいくらその身を痛めつけても、その気を高めていってもその差は一向に埋まる事がなく、むしろ大きく引き離されてしまっていったのである。 その深い絶望の事実は彼を大きく傷つけた。そのうち一日、次は二日と修行の日数も減っていき、いつしかまったく魔術に手をつける事がなくなってしまっていた。 彼は己を、未来を諦めていたのである。 トシは好奇心旺盛な男だった。 「やってはいけない」 そう言われると、どうしてもやってしまいたくなる衝動が抑られないのだ。 好奇心猫を殺すとはよく言ったもので、彼は自分の真横で大口を開けて眠っている兄の口の中に、トウモロコシの粒を放り込んだらどうなるだろうかという、よくわからない発想が何処からともなく沸いて出てきて、必死に自制をしたものの、結局その誘惑に敗北してしまったのである。 その結果、烈火のように怒り猛った兄に家を追われてしまい、今現在はジョウの家に居候を決め込んでいる。世話になりっぱなしでは悪いですからと、時折酒だの食料だのを持ち帰ってくるのだが、それがあまりに大量に持ち込んでくるのだ。下手をしたらその持ち込まれてくる食料だけで、その毎日を送っていく事も出来る。時折といったものの、不定期ではなくある種定期的に持ち込まれるものだから、さらに謎は深まる。一体それがどういう手段で得られているのか、ジョウは今も怖くて聞けない。 いや、一度だけ聞いてみたのだが、 「まあいいじゃないですか」 と一蹴されただけだった。 「で、何処いくんやー」 ジョウはもう、それを言うのみが己の仕事と言わんばかりで、その片手にはいつの間にか酒が握られている。 「さっきから準備ばっかして、何処に行くんか全然決めてへんやんか」 最初から他人任せでありながら、ふてぶてしくジョウが言う。 「いや、実はもう決めてるんですよ」 ほぼ準備を終え、荷物の最終確認をしながらトシは言った。 「あのですね、街のはずれに洞窟があるらしいんですよ」 「ああ、あの古代王国の遺跡とか触れまわっとるあれやろ。あんなん古代王国でも何でもあらへん。つっついてもせいぜいゴミくずが出てくるだけが関の山やで」 ジョウは露骨に嫌な顔をした。まるで洞窟に行った事があるような口ぶりだが、彼はそんなところへは行った事などない。 「それがですね、何か最近そこにゴブリンかなんかが住み着いたらしいんですよ。そいつら追い出したら街から報奨金が出るとか言う話なんです」 「ゴブリン~?」 「はい、ゴブリンです。ゴブリン」 ゴブリンとは極めて低級の獣人である。確かに人間よりわずかに力は強いものの、その知能は低く、臆病。そのくせ好戦的で武装をしているモノもいるが、その戦法と言えば数に物を言わせて突っ込んでくるばかりで、手馴れた冒険者などの相手ではない。 その道を諦めてしまったとはいえ、ジョウも名門の魔道士の出である。ゴブリンの一段程度なら、楽勝で勝つ事が出来るだろう。 「今まで何でそんなでかいもんらが住み着いたのに気がつかんかってんや、この街の衛兵はサボっとるん違うか?」 彼がそういうのも無理はない。この街がいかに平和な田舎町であると言えど、ゴブリン程度に苦戦するような衛兵など聞いた事がない。 「まあそう言わんといてくださいよ、ほら、報奨金50万円ですよ、50万円」 トシは懐から羊皮紙を取り出し、テーブルの上に広げた。確かに報奨金50万円と書いてある。 「それをはよ言いいな」 ジョウの動きは早かった。ひらりと立ち上がり、愛用のマントと杖を手に取る。 「ほないくでー」 「いきましょー」 そうして二人は家を出たのである。 「ところで、これ旅と違うくないか?」 「先立つものがないと困るじゃないですか」 「なるほどなあ」 不定期に続く。 ------------------ココマデ-------------------- 何だこりゃ。
by unnyo8739
| 2005-10-06 14:24
| 僕俺私小話
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Comments(3)
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