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物事に置いてタイミングとは、物凄く重要なものであると思う。 そのタイミング次第で、物事がいいほうに行ったり悪い方にいったりする。 ただ、そのタイミングは悪い事が起きる方にばかり発動している気がするのは 一体何故なんだろう。 物凄い音がした。 一瞬何が起こったのかわからなかった、いや、その一瞬が過ぎても やっぱり何が起こったのかわからなかった。はたしてそれは一瞬だったのか? だが、これだけは見た。地面が波打っている。 遠くで声が聞こえたような気がした。何が何だかわからない。 「地震だ!」 聞こえてきた声は、そんな言葉だったような気がする。 気がついたとき、目の前は真っ暗になった。音も聞こえなかった。 一体何がおきたんだ、これはどういうことなんだ。 体を動かそうとして、自分の足が座席に挟まれ、席を立つことが出来ない事に気がついた。 痛みはなかった、僕は一体どうなっているんだ。 自分の状態を確認しようとしたとき、ふと彼女の事が頭に浮かんだ。 さっき席を立った彼女。奈美の事だ。 「な、なな奈美さん!」 叫んだつもりだったが、果たして声になったのかはわからなかった。 痛みもない、音もない、何が起きたのかわからない、彼女がどうなったのかわからない、 全く何もわからない。僕は完全にパニックに陥っていた。 何もわからないというのは恐怖そのものだ。 赤ちゃんが始めてこの世界に生まれ出たとき、ひたすらに泣く気持ちがわかった気がする。 彼らが本当にそんな理由で泣いているのかなんて、そんな事はどうでもいい。 怖い、怖い、怖い。泣きそうになった。いや、泣く事すら忘れていた気もするが。 一体どれくらいそんな状態になっていたのだろう。 数分かもしれないし、数十秒かもしれない。だんだん音が聞こえてきた。 情報が自分に帰ってきている。痛みはまだ訪れていない。 「奈美さん!」 もう一度叫ぶ、自分の声が聞こえる。まだあたりは真っ暗だ。 闇の中からうめくような声、泣く声が聞こえてくる。 闇はこんなにも恐ろしいものなのか。音だけという中途半端な情報が 僕に更なる恐怖をもたらした。 「透…君」 声が聞こえた。 その声はこの闇の中の、一条の光のように思えた。 聖書だか何だかの世界の始まりも、「光あれ」の一言で始まっている。 まず、一声から物事は始まっているのだ。光とは、その声そのものなのだ。 神様に姿がないのも納得がいく。神とは声の存在なのだろう。 僕はもう一度彼女の名前を叫んだ、声が返ってくる。 声に安心したのか、僕はだんだん落ち着きを取り戻していく。 「だ、だだ大丈夫ですか!?」 僕が叫ぶ。こんなときまで変な癖がついてまわっているが、そんな事はどうでもいい。 「うん…、真っ暗で、よくわからないけど…」 僕は必死で座席から立とうとした。怖いのだ、恐ろしいのだ。 側にいて、その温もりを感じたかった、安心したかったのだ。 人はその本能で、人を求めているものなのだと痛感する。 彼女の元へ行こうとしていた。足が抜けないのは、前の座席が僕の方へ 倒れてきているからであるらしい。そして足を抜こうと必死になっている僕に だんだんと痛みがやってくる。ますます足を抜く事が困難になった。 一人必死に足を抜こうとしていたが、ふと前の席の人を起こす事が この足を抜く事の、解決策になるのではないかと思いついた。 座席が僕の方に倒れ掛かってきているのだ、それに座っていた人も 同じように僕に倒れ掛かってきているかもしれない。 真っ暗で、それを確認する事こそ出来ないのだが。 しかし、仮にそうであるなら、その人を起こす事は、 この足を抜く事よりも容易な事ではないだろうか。 「すいません!すいません!」 呼びかけてみる、返事はない。気絶しているのだろうか。僕はその座席の方へ、 すなわち、倒れ掛かっているのならば頭があるだろう方へ手を伸ばした。 髪の毛の感触を感じた、もう一度呼びかけながら、さらに手を伸ばす。 「いてっ」 突然指先に痛みを感じ、手を引っ込めた。何かで切ったような感触がある。 一体なんなんだ?血が指を伝う感覚がある。もう一度、今度は逆の手を伸ばす。 髪の毛があって…、顔があって…。 顔、顔?顔から何か出ている?ぬるりとした感触、 そして硬い、するどい刃物のような感触…。 闇の中は想像力が高まるようだ、僕は嫌な想像をした。 窓から風が、冷たい風が流れ込んでくる。僕は手を引っ込めた。 指も足も痛みがあったが、必死に前の座席を持ち上げ、足を横に抜く。 ジャリジャリと、床の上に何かが散らばっている。恐らく窓だったものだろう。 「奈美さん、何処です!?」 「こっち、こっちよ…」 僕は声の方向へと足を向けた。声は近いところから聞こえてくる。 そういえば、席を立ってすぐだったっけ。時折何かに躓きそうになったが、 その何かを調べようとは思わなかった、今はともかく彼女の元へ行きたい! 僕の頭の中にあるのはそれだけだった。 「奈美さん!」 「透君!」 僕の足を何かが掴んできた。声は足元から聞こえてきている。 「奈美さん?」 僕はそこにしゃがみこみ、その手を掴んだ。 「ああ、透君…」 彼女だ!僕は思わず抱きついてしまった。これがこんな状況なら きっと別の対応をとられてしまうだろうが、彼女も僕に抱きついてきた。 温かい、温かい。思わず涙が出そうになった。いや、もう出ていたかもしれない。 変な話だが、自分が泣いているかどうかも全くわからなかった。 それはこの暗闇のせいだったのだろうか。 彼女から嗚咽の声が聞こえた、自分が泣いているかもわからないのに、 彼女が泣いているのだけはわかるなんて、変な話だと思った。
by unnyo8739
| 2005-01-12 16:28
| 僕俺私小話
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