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「僕は君が来るのを待っていた、日本人の君が」 アンソニーの言葉の意味が僕にはわからなかった。 一瞬呆気にとられてしまった。 別に英語がわからなかったわけではない。 その言葉がどういう意味を指しているのか、全く理解が出来なかったのだ。 「ア、アンソニー、それはいったいどういう…」 我に帰った僕は、彼にそう質問しようとした。 だが、彼は僕に背をむけ、研究室の奥へと姿を消していく。 「ま、待てよ、アンソニー!」 僕は慌てて彼を追いかけた。 自分から声をかけてきたのに、そのまま相手を放置していくなんて なんて勝手な奴なんだろう。無性に腹が立ってくる。 そういえば、ボブが言っていた「あいつはイカレてる」 何となくそれも頷けるような気がしてきた。 『こんなやつ、無視してしまえばいいんじゃないか…?』 ふとそうも思ったが、やはり何か気になるものがあり、 僕は彼の背中を追った。 僕はつい昨日この研究室に着いたばかりで、ここの間取りもよくわかっていない。 この狭い研究室で、彼を見失うことはないと思っていたのだが 見事に見失ってしまった。 何故なら研究室の中は真っ暗なのだ。 時刻はもう朝だが、窓という窓には分厚いカーテンがかかっている。 光に弱い薬品もあるのだろう、日本の研究室も同じようなものだった。 電気をつけようと思ったが、何処に電気のスイッチがあるかわからなかった。 少し探せばすぐに見つかっただろう、しかし僕にはそんな事を気にする余裕はなかった。 見失った彼を探すのに必死だったのだ。 『僕に用があるのなら、せめて道案内位しろよ…』 一人ぶつくさと毒づく。 「こっちだ」 それを聞いていたのかどうかはわからないが、背後より声がした。 「アンソニー、一体どういうつもりなんだい」 彼は僕の後ろにあるドアの陰に立っていた。 「アンソニー、いったいどういうつもりなんだい!」 悪びれる様子もない彼に腹が立っていた僕は、つい大声をあげてしまった。 「どういうつもりって言うのは、どういうことなんだい」 淡々と彼が答える。 「どうって…」 僕は答えるのをやめた。妙に疲れてきたからだ。
by unnyo8739
| 2004-11-09 15:13
| 僕俺私小話
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